一席のお茶
台風が新潟にもやってくるという日の前日の話。
憧れのスリランカ王子様もスリランカへ戻ってしまったし、
私の今年も夏と一緒に終わりだななどと考えていたら、
パスポートの更新をしなくてはいけないということに気がついた。
あやうくわすれるところだった。
提出用の証明写真も中国で(安いから)撮ってきていたんだった。
大風と大雨の中、市役所にとぼとぼ申請にいく。
すると、係のおねいさんは、写真が小さいので出直してこいという。
ぴったりのサイズで確認済みだったのにと意義を申し立てたら、
小さいのは写真のサイズではなくて
『お顔』が小さいという。
小さいのは、あんたの顔じゃなくて、
写真の中の顔のサイズが規定より2ミリ(!)小さいんですよ、と強調する。
おねえさんは地図を描いてその中の1点に☆印をつけた。
『何も言わなくてもこの写真屋で撮影してくれますよ。』
また大雨の中、とぼとぼと歩いてそこに向かった。
死んでいる商店街。
どこもかしこもシャッターが下りている。
たまにあいている商店の中には商品がない。
フジフィルムの緑の旗が立っているところが
その写真屋のようだった。
中に入って、写真を撮りたいと申し出ると
店の中でラーメンを食べている男が『5分でできますよ』と
カメラの準備を始めた。
写真屋のはずなのに、大小さまざまなアンプとスピーカー
それに膨大なCDやレコードが積み上げられていた。
撮影の準備ができましたと
つれていかれた場所は、店の奥にある台所。
人目でお母さんのいないオトコ所帯とわかる。
にんにくとラーメンが重ねておいてあるテーブルの上に鏡があった。
そこでちょっとだけ髪を直す。
その日は写真を撮るつもりも
人にあう予定もなかったので、すっぴんの上に
髪の毛が将棋の羽生さんのようになっている。
『はい。撮ります。パシャパシャ』
以上で2枚1500円なり...高い。
左が2枚で1500円、右は6枚で400円
(かつらのようですが、かつらではありません)
今日の本題はここから。
写真ができあがるのを待っている間、
店の中のテーブルに座っていたら、
台所の奥から、おじいさんが現れて
お茶を立ててくれた。しゃかしゃかとちゃんと入れる抹茶。
近くに玉川堂(http://www.gyokusendo.com)の本社もあるし、
この辺の人は普通のことなのかもしれない。
我が家ではない、残念ながら。
そのお茶がほんとうにおいしくて
台風の日の低気圧に打ち破られそうな
気分をパッとはらってくれました。
ちょっと前に青森の『森のイスキア』の記事を読んだばかりだったので
(そこでは初女さんというおばあさんが握るおにぎりで元気がでる)
元気がないときなんかは、人から料理してもらったり、
お茶を出してもらったりするのがいいんだなと実感した。
もし人の体のどこかに魂の器があるとしたらその中にエネルギーを注ぎ込むような気持ちで料理する
おじいさんの話は、
スピーカーやアンプの話(アンティークで世界中から集めたんだそうで、
一番高いのは600万円するんだと)だったので、よくわからなかったけど、
おばあさんやおかあさんがいないのはこの道楽のせいなんだろうなと想像に難くなかった。
佐藤初女さんのおむすび
http://www.ne.jp/asahi/m/mana/topic/2006hondoori/omusubi.html